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大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)2341号 判決

原告

甲野太郎

右訴訟代理人

岡和彦

被告

右代表者法務大臣

嶋崎均

右指定代理人

矢野敬一

松本悦夫

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告の請求の趣旨

(一)  被告は、原告に対し、二四五一万〇四〇〇円及びこれに対する昭和五九年四月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(三)  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する被告の答弁

主文同旨の判決並びに仮執行免脱の宣言

第二  当事者の主張

一  原告の請求原因

1  本件公訴の提起、追行の存在

(一) 大阪地方検察庁の担当検察官は、昭和五七年二月一八日、大阪地方裁判所に対し、原告を、以下の公訴事実(以下「本件公訴事実」という。)により、業務上横領の罪名で公訴を提起した。

すなわち、「被告人は、塩干魚の仲買業を営む株式会社いづきの取締役として販売代金の集金、保管等の業務に従事していたものであるが、昭和五七年一月一六日、大阪市東住吉区今林一丁目二番六八号大阪市中央卸売市場内の同会社付近において、株式会社北庄ほか三名の得意先から集金して右株式会社いづきのため業務上保管中の右株式会社北庄ほか二名の振出にかかる小切手三通(金額合計三、一一三、四五〇円)、同会社振出にかかる約束手形一通(金額二、〇〇〇、〇〇〇円)及び現金三〇万円を、自己の用途に充てるため着服して横領したものである。」というものである。

(二) 大阪地方検察庁の担当検察官は、第一審の審理において原告を有罪とする旨の論告求刑をした。大阪地方裁判所の担当裁判官は、本件を審理した結果、昭和五八年三月一六日、原告に対し、懲役一年六月、執行猶予三年の有罪判決を言渡し、弁護人は、同判決について即日控訴を申し立てた。

(三) 大阪高等検察庁の担当検察官は、弁護人の控訴申立について理由がない旨の答弁をした。大阪高等裁判所の担当裁判官は、本件をさらに審理した結果、昭和五八年一二月一四日、別紙記載の判決理由により、第一審判決を破棄し、原告に対し、無罪の判決を言渡し、同判決は検察官の上告がなく確定した。

2  本件公訴の提起、追行上の論点

原告は、大阪市東住吉区今林一丁目二番六八号大阪市中央卸売市場東部市場内で、株式会社いづき(以下「いづき」という。)の第二売場(通称甲野売場)の責任者として塩干魚等の仕入販売業を営んでいたが、いづきには、三つの売場があり、第一売場は、和田筰(以下「和田」という。)、第二売場は原告、第三売場は、山田利夫(以下「山田」という。)が各担当していた。

そこで、本件事案の争点、すなわち、原告の有罪、無罪を決める重要論点は、いづきの三売場の実体がいづきとは独立採算の別事業かどうかの判断と密接に関連して、本件公訴事実記載中の「株式会社北庄ほか二名の振出にかかる小切手三通(金額合計三一一万三四五〇円)、同会社振出にかかる約束手形一通(金額二〇〇万円)及び現金三〇万円」(以下「本件小切手等」という。)がいづきの所有か、原告の所有かという点であつた。

3  本件公訴の提起、追行の違法性

(一)本件公訴の提起について

(1) 担当検察官は、以下のとおり、告訴状、関係者の供述調書中に、本件論点の記載があるのに、いづきの取引主体性、その実態等について疑いを持たず、本件小切手等がいづきに属するか原告個人に属するかについて、検討、調査もしないまま、本件論点の補充捜査を尽さずに証拠の不十分なままで本件公訴を提起したものである。

(イ) いづきの代表取締役和田は、昭和五七年一月二八日、東住吉警察署に対し、本件刑事事件について原告を告訴したが、右告訴状の中には、「いづき内の三つの売場は独立事業部制をとつている。」とか、「原告のなす業務は、本人たる会社の名において、かつ、会社の計算においてなす。」といつたように、いづきの三売場の実体がいづきとは独立採算の別事業ではないかと疑わせるに足りる文言が記載されていた。

又、東住吉警察署の担当警察官は、本件刑事事件について関係者の取調をしたが、同警察署において担当警察官によつて作成された関係者の供述調書によれば、いづきの取引銀行が全くなく、和田、原告、山田の各売場担当者の口座しかないこと、従つて、いづき名義の借金がないこと、原告には、木津信用組合東部市場支店に対し、四〇〇〇万円近い借金のあることが判明するのである。

以上の事実から、何故売場担当者個人に莫大な借金が生じるのか、その借金の弁済源資は何か、いづきは名前だけで、実際は三売場が別々に商売をやつているのではないか、和田、原告、山田の毎月の報酬はいくらで、その取り分は誰が決定するのか、何故従業員の数が売場によつて違うのか、従業員の採用、月給の額は誰が決定するのか、賃料、電気料金、水道料金の負担はどうなつているのか等という疑問が生じ、その結果、借金の負担者と取引、営業活動の成果の帰属者が一致するのではないか、したがつて、本件小切手等は、原告個人の所有に帰属するのではないかといつた、結論が導き出されてくるのである。

(ロ) ところが担当検察官は、東住吉警察署の担当警察官の作成した和田の供述調書にはいづきの三売場の実態について何らの言及もなされていないにもかかわらず、右の点について和田から直接事情を聴取することをしなかつた。しかし、いづきの代表取締役である和田は、第一、二審の公判廷において三売場は全く別個独立の事業であること、各売場の従業員を何人雇うか、給料をいくらにするかも各売場の責任者の裁量であること、各売場の責任者の報酬、取り分も 売場の営業状態を一番よく知つている売場責任者が自分で決めること、大体、各売場の損が出ればその責任者一人がひつかぶり、他の売場責任者には何ら関係がないこと、逆に利益が出れば全部自分一人占めに出来ること、いづきの名前での銀行取引は全くなく、借金も皆無であること等を証言しているのである。

担当検察官は、原告からだけ自ら供述を録取したが、検察官に対する供述調書(以下「検面調書」という。)の枚数は九頁で内容も司法警察員に対する供述調書(以下「員面調書」という)の引き写しにすぎないものであつた。

担当検察官としては、関係者の供述調書の中に、本件小切手等がいづきに帰属する旨の供述があつたからといつて、本件小切手等の帰属問題は、純法律問題であるから、捜査官において、予め、売掛金がいづきに帰属するとの答を設定しておいたためにそのような供述が得られたにすぎず、また、横領については、殺人や傷害のように自白が成り立つものでもないから、なお、本件論点についての捜査をするべきであつたのにこれを怠つた。

(2) 担当検察官は、以下のとおり、第一審において、当初、本件論点について証拠の取調を請求せず、弁護人より本件論点について指摘を受けてから、改めて証拠の収集、取調を請求したものであつて、本件論点についての証拠が不十分のまま本件公訴の提起に及んだものである。

第一審の第一回公判期日において、担当検察官は、証拠の取調を請求し、弁護人はその全部を同意し、右証拠の取調は終了した。しかし、右各証拠には、従業員の採用、その給料、売場責任者の報酬等の決定方法、売場同士の取引方法、営業資金の調達方法、営業上の損益の帰属主体等、いづきの三売場の実体についての記載がなされていないものばかりであつた。いづきの三売場の実態に関係する証拠と認められる昭和五七年二月四日付のいづきの商業登記簿謄本、「東部市場水産物部仲卸業者の適格役員について」と題する回答書は、いずれも第一回公判期日において取調請求がなされていなかつたが、このことは、担当検察官として、本事件の審理には、およそ関係がないものと考えていたことによるものである。

第二回公判期日において、弁護人は、いづきの下に和田、原告、山田の三つの売場があるが、三売場共通の経費は三名が原則として三等分して負担し、各売場の責任者の報酬、従業員の給料、雇用人数などは各売場責任者が決め、資金の調達は各売場の責任者が行い、いづきには資産も負債もないことなどを指摘し、本件小切手等が原告個人に帰属する旨の主張をし、書証と証人七名の申請をした。

第三回公判期日以降、担当検察官は、右の点について、すでに提出、取調のすんだ供述録取書のある供述者について、改めて調書をとり直した上、新たな書証として提出するとともに、証人二名のほか、弁護人から申請した証人のうち六名をも併せて申請した。公判廷で追加提出された証拠は、いずれも、いづきの経営の内容、実体を調査したものであつた。

(3) 担当検察官は、当初、本件公訴事実のほかに、原告が大福信用金庫東部市場支店の原告名義の普通預金口座から昭和五七年一月一四日に八二三万円を引出した行為をも、業務上横領事件として追起訴することを予定していたが、これを起訴しなかつた。しかし、右口座は、原告が自らの第二売場の営業のために開設したものであるから、第二売場の営業に関する原告の諸行為は、いづきの行為であり、売掛金等がいづきのものであるという論理からすれば、右口座から、預金を勝手に引出す行為が横領罪を構成するのは当然であるにもかかわらず、右事件は起訴されなかつた。担当検察官の論理と処分には、首尾一貫しないものが窺われるのである。

(4) その他、担当検察官は、以下のとおり、担当検察官の作成した供述調書にある明白な誤りをそのまま容認したままの証拠に基づいて本件公訴を提起している。

いづき代表取締役の和田は、昭和五六年一〇月六日に離婚して復氏し植谷姓になつているのに、それに気付いていない。

いづきが設立されたのは、昭和四四年一月三一日であるにもかかわらず、原告の員面調書では、昭和二九年に設立されたとされている。

井上登茂子は、三売場共通の従業員でパートタイマーであるにもかかわらず、同女の員面調書では、各売場の責任者は、必らず集金した金を井上に渡す義務があり、同女が原告よりも地位が上位であるかの如く記載されている。

原告の員面調書によれば、原告が昭和五七年一月一五日から一八日までの四日間と同月二八日に競艇に行つて横領した金を費消したことになつているが、本件小切手等が取立にまわされて引き出されたのが一月二五日であり、しかも、乙野花子の員面調書では一月二八日には原告の愛人である乙野花子とが同伴しており、競艇について何らの記載がないのであるから、原告が横領した金を競艇で費消することはありえないのである。

(5) 以上述べたとおり、担当検察官としては、告訴状、警察官作成の供述調書等から、いづきにおける外部取引面と内部実体面との間には、一般の企業と異なつた点があることを理解し、本件論点を検討し、補充捜査を尽くすべきであるのにこれを怠り、公訴提起時点で、検察官が収集していた証拠では、有罪にはなしえないにもかかわらず、本件公訴の提起に及んだものであり、本件公訴の提起は違法である。

(二) 本件公訴の追行について

(1) 担当検察官は、第一審において、公判廷で取り調べられた証拠によつて、いづきの三売場の実体が独立採算制をとつていることが明らかとなつた後においても、あくまで本件小切手等がいづきのものであるとして論告求刑を行なつた。

(2) 担当検察官は、第二審において、「東部市場におけるいづきは、同市場塩干部の仲買人として大阪市長から業務許可を受け、同市場の売場施設を借受けて仲買業務を運営しているものであり、一方被告人(原告)は、いづきの適格役員として同社の仲買業務を執行しているものである。従つて、被告人らは市場における売買については、被告人ら自身が取引の主体とはなりえず、市場における売買取引はすべていづきを取引主体としてなされており、市場における商品取引はあくまで仲買人であるいづきを取引の主体とし、被告人らは、同社のために仲卸業務を執行する適格役員として売買取引を行なうのであるから、本件小切手等はいづきのものである。」と主張したが、この見解は、いづきの内部的実質は別として外部的形式を強調したいわゆる形式論に立脚するものである。

しかし、横領罪における判例は、ある行為、取引によつて生じた権利や物は、その取引等の法律上、外形上の名義人にではなく、真の計算主体、損益帰属者のものになるといういわゆる実質論に立つているのであるから、判例の趨勢に反して行なわれたものである。

(3) 以上述べたとおり、担当検察官は、第一審において、公判廷で取調べられた証拠によつて、本件論点に関する事実関係が解明され、本件小切手等が原告のものであることが明らかになつた後においても、あくまでいづきのものであるとして論告求刑を行ない、控訴審においても控訴の理由なしと答弁したが、これらの公訴の追行は違法である。

4  被告の責任原因

以上のとおり、担当検察官は、被告の公権力を行使するにあたり、原告に対し、前記の違法行為を行い、右違法行為の程度、態様から、その故意又は過失を推認しうるから、被告は国家賠償法一条一項により、これによつて原告が被つた損害を賠償しなければならない。

5  原告の損害

(一) 逸失利益 一三〇〇万円

原告は、従来、いづきの第二売場の責任者として、毎年六五〇万円の収入を得ていたが、業務上横領罪により本件公訴を提起、追行されたことにより、和田、山田や従業員等から、原告が第二売場の商品や売掛金について、一切権利を有しないと信じられたため、本件公訴の提起から無罪判決までの二年間にわたり第二売場において営業を継続することができなかつた。

従つて、原告の二年間の逸失利益は、一三〇〇万円(6,500,000×2=13,000,000)となる。

(二) 慰謝料 一〇〇〇万円

原告は、本件公訴の提起、追行をされてから無罪判決までの二年間、無実を訴えて苦しんだのみならず、本件公訴提起、追行により、自分の第二売場が倒産し、不名誉と金融機関に対する巨額の借金を負うに至つた。

原告の右精神的苦痛に対する慰謝料としては、一〇〇〇万円が相当である。

(三) 差し引くべき刑事補償金 四八万九六〇〇円

原告は、六八日間の逮捕勾留に対する刑事補償として、四八万九六〇〇円(7,200×68=489,600)の支給を受けたので、これを控除する。

(四) 弁護士費用 二〇〇万円

原告は、本件訴訟を原告訴訟代理人に委任し、着手金、報酬として二〇〇万円を支払う旨約した。

6  結論

よつて、原告は、被告に対し、国家賠償法一条一項の不法行為による損害賠償請求権に基づき、二四五一万〇四〇〇円及びこれに対する不法行為の後で本件訴状送達の日の翌日である昭和五九年四月一三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告の認否及び主張

1  請求原因第1項(一)(二)(三)の事実は認める。

同第2項の事実は認める。

同第3項(一)(二)の事実は否認する。

同第4項の主張は争う。

同第5項の事実は知らない。

同第6項の主張は争う。

2  本件公訴の提起、追行の経過について

(一) 本件刑事事件における論点は、原告の集金した本件小切手等が法人であるいづきに帰属するものであるかあるいは原告個人に帰属するものであるか、換言すれば、いづきなるものは法人として実体のあるものか否かというところにあつた。

(二) いづきの代表取締役和田は、昭和五七年一月二八日、東住吉警察署に対し、本件公訴事実記載と同趣旨の被害事実等について、原告を業務上横領罪等で告訴し、これを端緒として本件刑事事件の捜査が開始された。

東住吉警察署の担当警察官は、右告訴を受けて、右同日及び翌二九日の両日にわたり、和田の取調べと所要の裏付け捜査を行なつた結果、いくつかの事実が判明した。すなわち、原告は、同月一四日ころ、株式会社北庄ら得意先四名から本件小切手等を集金したこと、右集金した売掛金は、同月一六日以降において、いづきからその商品仕入先である大阪魚市場株式会社及び株式会社大水に対し、いづきなど東部市場所属の仲買業者で構成する東部水産物卸協同組合の共同精算所を通じて支払うべき買掛金の支払資金であつたこと、原告は、同日の朝、本件小切手等を持つたままいづきの売場から姿を消し、以後所在をくらませていること、本件小切手等のうち小切手三通(額面合計金三一一万三四五〇円)は、同月一九日、原告の愛人である乙野花子名義の協和銀行大国町支店普通預金口座に入金された上、小切手金が取り立てられた後の同月二五日、三一一万円が引出されていることなどの事実が判明した。

そこで、同警察署の担当警察官は、同月二九日、原告の立ち回り先として考えられた大阪市浪速区内の乙野花子方に赴いたところ、同日午後三時五〇分ころ、たまたま同所に来合わせていた原告を発見し、同日午後四時一五分ころ、同署に任意同行を求めて取り調べた結果、同人が本件公訴事実記載同旨の業務上横領の犯行を全面的に認めたので、同日午後四時二〇分、同人を緊急逮捕した。

(三) 大阪地方検察庁は、翌三〇日、同警察署から原告に対する右業務上横領被疑事件の身柄送致を受けた、担当検察官は、原告に対し、弁解の機会を与えたところ、原告は何ら弁解することなく、被疑事実を認めた。そこで、担当検察官は、原告について罪証隠滅及び逃亡のおそれが存し、勾留の必要があるとの判断に基づき、裁判官に対し、原告の勾留を請求し、勾留状の発付を受けて同人を同署に勾留し、さらに、同年二月八日、補充捜査の必要から勾留期間延長一〇日間の決定を得て勾留を継続し、その間、所要の捜査を遂行した。

(四) 担当検察官が本件刑事事件の論点に関する証拠として、本件公訴提起時に収集していた主なものは、いづきの昭和五七年二月四日付登記簿謄本、大阪市中央卸売市場長堤治作成の「東部市場水産部仲卸業者の適格役員について」と題する回答書、和田の員面調書、井上登茂子の員面調書、浅井博の員面調書、北口常次郎の員面調書、松田種造の員面調書、小林峰男の員面調書、安並孝の員面調書、緊急逮捕手続書、原告の司法警察員に対する弁解録取書、原告の検察官に対する弁解録取書、原告に対する勾留質問調書、原告の員面調書、原告の検面調書などであつた。そして、によると、いづきの営業目的は、「1大阪市中央卸売市場東部市場内に於ける塩干魚の仲買業務、2前号に付帯する業務」と登記されており、によると、同市場内における仲買業務を行い得る者は、大阪市長から許可を受けた法人のみとされている。ないしによると、いづきの内部の関係者、従業員らの供述のみならず、取引の相手方であるいづきの外部の者からも、いづきの下の三売場の取引は「個人取引ではなく、株式会社いづきとの信用取引である。」との供述がなされている。

担当検察官は、主として以上の証拠を総合し、いづきは実体のある取引主体たる法人として存在しており、組織内部では第一売場から第三売場までの三売場があつて、それぞれ和田、原告、山田がその責任者であること、右三売場はある程度の独立性を持つた独立採算制を採用しているが、これはいづき創立者である先代和田喜三郎が、昭和四四年初め、いづきを設立して東部市場で営業を開始するに際し、和田及び原告らに営業を分担させ、各売場に独立採算制を採らせることによつて各売場相互に競争させて会社の業績を向上させることを意図したからにすぎないものであつて、対外的な取引主体はあくまで法人であるいづき自体であること、原告は単に売場責任者、適格役員としていづきのためにその業務執行に当たるにすぎず、したがつて、原告が集金した売掛金も当然原告個人に帰属するものではなく、いづき自体に帰属するものであること、と判断して、本件公訴を提起した。

(五) 本件刑事事件に対する第一審の公判期日は、昭和五七年三月二四日に開かれ、原告及び弁護人ともに本件公訴事実を全面的に認めた。

同年四月二六日の第二回公判期日において、弁護人は、本件小切手等が原告個人に帰属する旨の主張をなし、原告もこれに呼応して公訴事実を争うに至つた。

そして、一二回公判期日が開かれ、その間、検察官の請求にかかる書証七五点、証拠物二三点、弁護人の請求にかかる書証八点の取調べがなされ、また、検察官申請にかかる証人二名、弁護人申請にかかる証人一名、検察官、弁護人双方申請にかかる証人六名の合計九名の証人尋問が行なわれ、さらに、担当裁判官の職権による被告人質問が行われた。

その結果、大阪地方裁判所の担当裁判官は、昭和五八年三月一六日、原告に対し、懲役一年六月、執行猶予三年間の有罪判決を言い渡した。

(六) 右第一審判決に対し、弁護人から大阪高等裁判所に控訴が申し立てられ、控訴審において昭和五八年六月二二日に第一回公判期日が開かれ、以後四回の公判期日が開かれた。

その結果、大阪高等裁判所の担当裁判官は、同年一二月一四日、右第一審判決を破棄し、原告に対し、無罪判決を言い渡し、右判決は、同月二九日確定した。

3  本件公訴の提起、追行の違法性について

(一) 公訴の提起について

(1) 刑事裁判において、被告人に対する無罪判決が確定した場合、そのことによつて検察官の公訴提起行為が直ちに違法となるものではなく、公訴提起の段階において、収集された証拠及び法的評価に照らし、当該公訴提起にかかる事実について客観的に犯罪の嫌疑が十分にあり、有罪判決を期待できる合理的な根拠が存在した場合には、当該公訴提起行為は違法であると解される。すなわち、検察官は公訴を提起すべきかどうかを判断する場合、それまでに収集した全証拠を総合評価し、法的評価をなし、その結果、犯罪の嫌疑が十分であつて公判審理のうえ有罪判決を得る見込が合理的に期待できるとの心証に達したならば、起訴を猶予すべき特段の事情がない限り、公訴を提起すべき職責を負うものである。したがつて、右のような経過を経てなされた公訴提起である以上、その後の公判審理において新たな証拠が提出されたり、裁判官が証拠の評価につき検察官と異つた見解を採つたことなどの理由から無罪の判決が下され確定したとしても、そのゆえに検察官の当該公訴提起行為が当然に違法であつたとされるわけではない。したがつて、検察官の公訴提起行為が違法であるとされるには、検察官が有罪判決を期待できる合理的な根拠が存在しないにもかかわらず公訴提起をなし、それが当該事案の内容に照らし当然なすべき捜査を怠り、又は収集した証拠の評価を誤るなどして、経験則及び論理則上到底首肯し得ない程度に著しく非合理な心証形成をなしたことに基づく場合でなければならない。

これを本件についてみると、前記のとおり、担当検察官は、本件小切手等が原告に帰属するものではなく、いづき自体に帰属するものであると判断して本件公訴を提起したものであるが、本件公訴提起時に有していた前記ないしの証拠関係に照らせば、右判断は極めて合理的かつ経験則にかなつたものであり、公訴提起時において右判断の支障となる特段の証拠も存在しなかつたことを併せ考えれば本件公訴の提起に違法はない。

(2) 原告は、担当検察官は、以下のとおり、本件刑事事件の告訴状、担当警察官の作成した供述調書に本件論点の記載があるのに、これに関心をもたないまま補充捜査を尽さずに本件公訴を提起した、と主張する。

(イ) 検察官が補充捜査をなし、さらに証拠の収集に努めるべきかどうかは、事案の性質、既に収集されまた証拠及び確実に入手が予測される証拠の証拠能力、証明力等を総合的に判断して有罪判決を得る客観的、合理的な見込が十分であるか否かにより決すべに裁量行為であつて、単にこれをなさなかつたことをもつて違法があるということにはならず、右裁量の範囲を越えて検察官の義務違反があつたというためには、当該証拠の収集が通常当然になすべき補充捜査と言えること及び右証拠の収集を懈怠したため事実認定を誤り、ひいては有罪判決を得る可能性のない事件につき起訴した場合であることを要するというべきである。

しかし、本件では、原告は逮捕以来一貫して本件公訴事実記載と同旨の被疑事実を認めていること、起訴時に収集していた前記ないしの証拠を総合して、いづきは実体のある取引主体たる法人として存在し、したがつて集金した売掛金は原告個人ではなくいづきに帰属するものであると判断することは合理的かつ経験則にかなつたものであつて、右判断の支障となる特段の証拠は存在しなかつたこと、加えて、刑事訴訟法上、検察官と司法警察職員は相互協力体制にあり(同法一九二条)、検察官は司法警察職員を指揮して捜査の補助をさせ得ること(同法一九三条三項)、第二審判決がいづきの経営実態、売掛金帰属の判断の主たる根拠としたものは、昭和四四年四月一一日付「株式会社いづき運営契約証書」なる公正証書であることがうかがわれるが、原告は、捜査段階においては右公正証書の存在すら認識しておらず、公判段階に至つて偶然気付いたにすぎないものであることなどを併せ考えれば、担当検察官が通常当然になすべき補充捜査を怠つたものとは到底いうことができず、また、一審公判において、審理を重ねた上でもなお有罪判決が言い渡されていることに照らしても、補充捜査を怠つたがために有罪判決を得る可能性のない事件につき起訴したものとも到底いうことができない。

(ロ) 右訴状に記載されていた独立採算制なるものは、公企業あるいは私企業の内部の構成単位に経営管理や財政の自主性を認めることによつて経済性を発揮させ、それによつてそれぞれの単位だけで独立して収支を適合させる制度をいうにすぎず、構成単位の集合体である企業自体の存在を何ら否定するものではなく、収支の最終的帰属はあくまで構成単位の集合体である企業自体であり、また、告訴状にいう独立事業部制のいわんとするところも右独立採算制と同義であるというべきであるから、独立採算制、独立事業部制の文言があることを過大視することは失当である。要はいづきの経営実態いかんであつて、これについては、いづきにおける三売場はある程度の独立性を持つてはいるが、それは各売場相互に競争させて会社の業績を向上させようとの創立者の意図によるものにほかならず、取引主体たるいづきなる法人の存在自体までもが否定されるものではないことは明らかであるから、担当検察官が公訴提起時において、右のごとく判断したことは合理的かつ経験則にかなつたものということができ、また、審理を重ねた上での第一審判決もこれを認めているのであるから、告訴状に独立事業部制という文言があり、また、独立採算制という供述があることをもつて捜査が不十分であつたということはできない。

又、警察官の作成した関係者の供述調書に記載されていたいづきの取引銀行がないことについても、右のとおり、いづきの内部形態が、営業成績向上のため、独立事業部制を採つているがゆえに各事業部たる各売場毎に取引口座を設けているのであると理解すれば、何ら不整合な点はない。

(3) 原告は、担当検察官において、当初本件論点に関係のある昭和五七年二月四日付いづきの商業登記簿謄本、「東部市場水産物部仲卸業者の適格役員について」と題する回答書の証拠調の請求をせず、弁護人から指摘を受けて、改めて本件論点に関する証拠の収集、取調を請求したものであつて、本件論点についての証拠不十分のまま本件公訴を提起したものである、と主張する。

担当検察官が当初証拠調の請求をしなかつた昭和五七年二月四日付のいづきの商業登記簿謄本は、和田の員面調書末尾添付の昭和四七年四月二五日付のいづきの商業登記簿謄本とその内容を比較しても、本店所在地、役員の構成に変化が見られるのみであり、いづきの実態を検討する上では格別の差異はないのであるから、右和田の員面調書と一体となつた商業登記簿謄本を証拠調請求する以上、あえて昭和五七年二月四日付商業登記簿謄本を重ねて証拠調請求する必要はなかつたというべきである。ちなみに、昭和五七年二月四日付商業登記簿謄本の記載も植谷筰ではなく和田作である。又、検察官が当初証拠調の請求をしなかつた「東部市場水産物部件(ママ)卸業者の適格役員について」と題する回答書についても、およそ公訴事実の認定に関連があれば、検察官の立証段階の冒頭にすべて証拠調請求すべしとの理由はないはずであつて、審理の進展、立証状況に対応して、新たに証拠調請求をすることも許されるのであり、本件における検察官もまさに右立証方法を採つたにすぎず、右回答書が当初証拠調請求されなかつたことをもつて、検察官において、いづきの実態いかんが本件横領罪の成否を左右するものでなく、右事件に関係がないものと判断していた証左であるとするのは原告の独断である。

(4) 原告は、担当検察官が警察官の作成した供述調書にある明白な誤まりをそのまま容認したままの証拠に基づいて本件公訴を提起している、と主張する。

原告は、本件小切手三通金額合計三一一万三四五〇円が取立てに回され現金三一一万円が引き出されたのが一月二五日であることをとらえて小切手金が競艇資金に費消されたことはありえない旨主張するが、原告の捜査段階における供述によれば、一月二八日にも尼崎競艇に行きそこで二四〇万円費消したというのであるから何ら矛盾することはない。

原告は、昭和五七年一月二九日、本件により初めて警察に出頭を求められて以来、公判廷で公訴事実につき否認に転じるまでは、競艇で費消したことを一貫して認めており、刑事事件の控訴審の審理に至つて初めて、昭和五七年一月一四日に大福信用金庫から引き出した現金八二三万円及び小切手三通を現金化した三一〇万円の合計一一三三万円は逮捕された時点においても自宅の押入れの中に入れてあつた旨を供述し、それまでの捜査段階においては右現金を自宅の押入れに入れてあるなどとは一切供述したことはなく、また、一審の審理の際にも、競艇で金を費消したことはない旨を供述するのみで押入れに入れてあつたなどということには一切触れることがなかつたのである。担当検察官が原告の供述を信用して競艇で費消されたものと認定したからといつて、何ら不合理ではない。

(二) 公訴の追行について

(1) 検察官は、公益の代表者であり、また、公訴権を行使しうる唯一の国家機関であることから、その権限の行使は厳正かつ中立でなければならないことは当然であるが、同時に裁判所に対する関係においては公訴権行使の正当性を主張、立証する当事者の一方として、収集された証拠及び公判の審理経過に照らし、有罪判決を得る見込が合理的に期待できると判断する以上、公訴を追行する職責を負うものである。したがつて、右のような公訴追行である以上、公訴提起において述べたところと同様に、裁判官によつて無罪の判決が下され確定したとしても、それゆえに検察官の当該公訴追行行為が当然に違法であつたとされるわけではなく、有罪判決を期待できる合理的な根拠が存在しないにもかかわらず公訴を追行し、それが検察官の故意又は過失により証拠の評価を誤るなどして、経験則及び論理則上到底首肯しえない程度に著しく非合理な心証形成に基づく場合であつて初めて検察官の当該公訴追行行為が違法であつたといえるのである。

(2) 前記のとおり、本件公訴の提起は有罪判決を期待できる合理的根拠が認められるものであり、かつ、検察官は公訴を追行維持する職責を負うものであるから、担当検察官が有罪判決を期待できる合理的根拠があると判断し、公訴を追行したことはまさに適法であり、検察官に義務違反はない。

また、第二審の担当検察官が控訴を棄却すべきであるとの答弁書を提出して公訴を追行したことについても、第一審の担当検察官について述べたところに加えて、第一審判決が有罪であることを認めていることに照らせば、右公訴の追行は適法である。

第三  当事者の提出、援用した証拠

<省略>

理由

一本件公訴の提起、追行の存在

以下の事実は、当事者間に争いがない。

(一)  大阪地方検察庁の担当検察官は、昭和五七年二月一八日、大阪地方裁判所に対し、原告を、以下の公訴事実により、業務上横領の罪名で公訴を提起した。

すなわち、「被告人は、塩干魚の仲買業を営む株式会社いづきの取締役として販売代金の集金、保管等の業務に従事していたものであるが、昭和五七年一月一六日、大阪市東住吉区今林一丁目二番六八号大阪市中央卸売市場内の同会社付近において、株式会社北庄ほか三名の得意先から集金して右株式会社いづきのため業務上保管中の右株式会社北庄ほか二名の振出にかかる小切手三通(金額合計三、一一三、四五〇円)、同会社振出にかかる約束手形一通(金額二、〇〇〇、〇〇〇円)及び現金三〇万円を、自己の用途に充てるため着服して横領したものである。」というものである。

(二)  大阪地方検察庁の担当検察官は、第一審の審理において原告を有罪とする旨の論告求刑をした。大阪地方裁判所の担当裁判官は、本件を審理した結果、昭和五八年三月一六日、原告に対し、懲役一年六月執行猶予三年の有罪判決を言渡し、弁護人は、同判決につき即日控訴を申し立てた。

(三)  大阪高等検察庁の担当検察官は、弁護人の控訴申立について理由がない旨答弁をした。大阪高等裁判所の担当裁判官は、本件をさらに審理した結果、昭和五八年一二月一四日、別紙のとおりの判決理由により、第一審判決を破棄し、原告に対し、無罪の判決を言渡し、同判決は検察官の上告がなく確定した。

二  本件公訴の提起、追行上の論点

以下の事実は、当事者間に争いがない。

原告は、大阪市東住吉区今林一丁目二番六八号大阪市中央卸売市場東部市場内で、いづきの第二売場(通称甲野売場)の責任者として塩干魚等の仕入販売業を営んでいたが、いづきには、三つ売場があり、第一売場は、和田、第二売場は原告、第三売場は、山田が各担当していた。

そこで、本件事案の争点、すなわち、原告の有罪、無罪を決める重要論点は、いづきの三売場の実体がいづきとは独立採算の別事業かどうかの判断を(ママ)密接に関連して、本件公訴事実記載中の「株式会社北庄ほか二名の振出にかかる小切手三通(金額合計三一一万三四五〇円)、同会社振出にかかる約束手形一通(金額二〇〇万円)及び現金三〇万円」(以下「本件小切手等」という。)がいづきの所有か、原告の所有かという点であつた。

三本件公訴の提起、追行の経過

<証拠>を総合すれば、以下の事実を認めることができ、以下の認定に反する証拠はない。

(1)  いづき代表取締役和田は、昭和五七年一月二八日、東住吉警察署に対し、本件公訴事実同旨の被疑事実等について、原告を業務上横領等で告訴し、これを端緒として本件捜査が開始された。

東住吉署の担当警察官は、同月二八日、二九日の両日にわたり、和田のほか関係者の取調べをした結果、告訴にかかる被疑事実が存在するものと判断した。そこで、同警察署の担当警察官が、同月二九日、大阪市浪速区内の乙野花子方に赴いたところ、同日午後三時五〇分ころ、同所に来合わせていた原告を発見し、同日午後四時一五分ころ、同署に任意同行を求めて取調べた結果同人が本件公訴事実記載同旨の業務上横領の事実を認めたので、同日午後四時二〇分、原告を本件公訴事実同旨の業務上横領罪の被疑事実で緊急逮捕した。

(2)  大阪地方検察庁は、翌三〇日、同署から右業務上横領被疑事件の身柄送致を受けた。担当検察官は、原告に対し、弁解の機会を与えたところ、原告は何ら弁解することなく被疑事実を認めた。そこで、担当検察官は、原告について勾留の必要があるとの判断に基づき、大阪地方裁判所裁判官に対し、原告の勾留を請求し、勾留状の発付を受けて同人を同署に勾留し、さらに、同年二月八日、勾留期間延長一〇日間の決定を得て、勾留を継続し、その間、原告から供述を録取したが、和田ほか他の関係者から直接事情を聴取することはしなかつた。

(3)  担当検察官が本件論点に関する証拠として本件公訴提起当時に収集していた主要なものは、① いづきの昭和五七年二月四日付商業登記簿謄本(乙第一三三号証)、② 大阪市中央卸売市場長堤治作成の「東部市場水産物部仲卸業者の適格役員について」と題する回答書(乙第二号証の一・二)、③ いづきの告訴状(甲第一号証)、④ 和田の員面調書三通(甲第二号証ないし第四号証)、⑤ 井上登茂子の員面調書(甲第五号証)、⑥ 浅井博の員面調書(甲第六号証)、⑦ 北口常次郎の員面調書(甲第一一号証)、⑧ 松田種造の員面調書(甲第一三号証)、⑨ 小林峰男の員面調書(甲第一五号証)、⑩ 安並孝の員面調書(甲第一六号証)、⑪ 乙野花子の員面調書(甲第一七号証)、⑫ 甲野律子の員面調書(甲第一八号証)、⑬ 原告の員面調書七通(甲第二〇号証ないし第二六号証)、⑭ 原告の検面調書(甲第二七号証)、⑮ 緊急逮捕手続書(乙第一三一号証)、⑯ 原告の司法警察員に対する弁解録取書(乙第三六号証)、⑰ 原告の検察官に対する弁解録取書(乙第三七号証)、⑱ 原告に対する勾留質問調書(乙第三八号証)などであつた。

①によれば、いづきは、昭和四四年一月三一日、資本金五〇〇万円として設立され、本店所在地は大阪市東住吉区今林一丁目二番六八号大阪市中央卸売市場東部市場内であること、取締役には、和田、細田義明、山田、原告の四名が、監査役には武本勝治が、代表取締役には和田がそれぞれ就任していることが認められる。

②によれば、大阪市中央卸売市場東部市場においては仲卸業務の許可は法人に対してのみなされること、法人の適格役員は、大阪市中央卸売市場に係る開設区域内においては、当該法人の業務としてする場合にのみ当該許可に係る取扱品目の部類に属する生鮮食料品の販売ができること、原告はいづきの適格役員であることが認められる。

③によれば、いづきは告訴状において、次のとおり主張していた。すなわち、いづきは、和田、原告、山田の三人を各責任者とする三売場をもつ塩干魚仲買を業とする株式会社であること、原告は、昭和四四年四月のいづきの設立以来の取締役であり、第二売場の責任者かつ塩干魚の仲買業務の執行役員として販売得意先からの売掛金の回収、保管等の業務にあたつていたが、昭和五七年一月一六日午前九時ころ、出勤した直後に所在不明となつたこと、関係者の捜索により、原告は、一月一四日に、主たる取引先の売掛金として、本件小切手等を回収し、これらの代金を入金すべき銀行預金口座に入金していないことが判明したこと、いづきは、社内的には、日常の取引、代金回収は、担当売場に関し、その売場責任者が全責任を負い、それらの合計額を同社の取引とする独立事業部制をとつているが、対外的には、商取引、監督官庁、税務署、登記上も単一の株式会社であること、各責任者は業務上回収した代金等を個人名義の銀行預金で保管することが許諾されているが、純粋個人預金とは区別されていること、いづきは、原告が売場責任者として買付けた商品代金約二四〇〇万円の請求を受けて倒産のおそれにさらされていることなどである。

④によれば、いづきの代表取締役和田は、次のとおり供述していた。すなわち、いづきの経営の実態は、いづきの下に第一売場である和田売場があり、和田が責任者でその下に従業員が四名いること、第二売場である甲野売場は、原告が責任者でその下に三名の従業員がいること、第三売場である山田売場は、山田が責任者で、その下に二名の従業員がいること、売場は売場責任者において日常の取引と代金の回収の全責任を負い、三つの売場の合計額を会社の取引とする独立事業部制をとつていること、原告は、第二売場である甲野売場の責任者であるとともに、いづきの経理担当取締役、塩干魚の仲買業務執行役員として販売先の売掛金の回収と保管及び仕入先の支払業務に昭和四四年四月一日から従事していたこと、本件小切手等は、いづれも原告が昭和五七年一月一四日に回収し、株式会社北庄振出の約束手形(額面金額二〇〇万円)、安並孝から集金した現金三〇万円を除く本件小切手等は、いづれも同年一月一九日に協和銀行大国町支店の花子名義の預金口座に入金し、同月二五日に三一一万円を引き出していること、乙野花子は、クラブホステスで、昭和五六年五月ころから原告と付き合いがあること、原告は、従来、木津信用組合東部支店の当座預金口座を利用していたが、多額の借入れのため、当座取引が実質的にできなくなつたこと、そのため、原告は、和田の当座預金口座を利用して、和田が原告の仕入れ分を立替払いし、その分は事務員の井上登茂子が大福信用金庫東部市場支店の原告の普通預金口座から引き出して、和田の当座預金口座へ入金していたこと、原告の木津信用組合東部市場支店との取引状況については、和田はまつたくわからないこと、現在、いづきは東部市場の取引を停止され、和田売場、山田売場は他の業者を通して取引を継続していることなどである。

⑤によれば、いづきの事務員井上登茂子は次のとおり供述していた。すなわち、井上は、昭和四九年四月二六日からいづきに事務員として勤め、経理を含めた事務を担当し、今日に至つていること、いづきの店は、会社の下に第一売場和田、第二売場原告、第三売場山田があり、その売場で三人が仕入、売掛回収、支払をそれぞれ責任を持つてやつていること、いづきの仕入先は東部市場内の大阪市魚市場株式会社東部支社と株式会社大水東部支社の二か所であり、仕入については、三つの売場の仕入商品をいづきでまとめて大阪魚市場株式会社と株式会社大水東部支社に注文し、支払については、昭和五六年一月二七日までは和田は大福信用金庫東部市場支店の当座、原告は木津信用組合東部支店の当座、山田は大福信用金庫東部市場支店の当座の小切手で東部市場内にある大阪市東部水産物卸協同組合に支払いをしていたこと、支払は必らず小切手に決められていること、ところが、原告は、木津信用組合東部市場支店から四〇〇〇万円の借入枠を超えた借用のため当座取引は実質的にとめられたので、昭和五六年一一月二七日から大福信用金庫東部市場支店で原告名義の普通預金口座を開設し、印鑑は原告が持ち、通帳は井上が預つていたこと、大阪市東部水産物卸協同組合に対する支払は、和田の当座小切手で原告売場分の仕入代金を立替払いし、原告の普通預金からその代金を引き出して和田の当座へ入金していたこと、井上は昭和五七年一月一三日、午後一時ころ、原告に原告の通帳を渡したこと、原告は同月一六日午前九時ころ、井上に事務所で同組合の精算額を確認したことなどである。

⑥によれば甲野売場の従業員浅井博は次のとおり供述していた。すなわち、浅井は、甲野売場の従業員であること、いづきは、和田が社長であるが、東部市場内塩干部二〇号に三か所の売場を有しており、各売場とも、責任者がいて販売から売掛金の回収等独自でやり、後日、会社に入金するようになつていたこと、現在、和田売場(責任者和田)、山田売場(責任者山田)、甲野売場(責任者原告)の売場があること、浅井ら従業員が集金した小切手については、甲野売場としての売掛金ではあるが、会社組織の商であるので、当然のことながら原告が会社に入金して決済しなければならない性質のものであること、浅井は、昭和五七年一月七日ころ、原告からスーパーコバヤシの集金を指示され、同月一〇日午後零時ころ集金に赴き、額面金額四六万八七五〇円の小切手を受取り、同月一一日の午前四時三〇分ころ、原告に右小切手を手渡したことなどである。

⑦によれば、取引先の北口常次郎は次のとおり供述していた。すなわち、北口は、昭和三九年ころから、株式会社北庄として塩干魚の小売をやつていること、株式会社北庄は、昭和四〇年ころから、いづきの甲野売場と取引をしていること、取引については個人取引ではなく、いづきとの信用取引であり、原告に対して支払う仕入商品の代金も確実に会社にて決済してくれるべきものであること、株式会社北庄は、昭和五七年一月一四日午後五時ころ、原告が集金に来たので、約束手形と小切手で二〇〇万円ずつ支払つたことなどである。

⑧によれば、取引先の松田種造は次のとおり供述していた。すなわち、松田種造は約一〇年前から有限会社松田商店として塩干魚の小売業を営業し、いづきと取引していること、取引については、個人取引ではなく、いづきの信用による取引であるので、原告に対して支払う仕入れの商品代金も確実に会社に入金されるべき筋の代金であり、原告を信じて今日まで支払をしてきていること、有限会社松田商店は、昭和五七年一月一四日午後六時少し前ころ、原告が店に請求に来たので、小切手(額面金額六四万四七〇〇円)で支払つたことなどである。

⑨によれば、取引先の小林峰男は次のとおり供述していた。すなわち、小林は、約三年前からスーパーコバヤシとして、食料品の小売業を行なつていること、スーパーコバヤシは、いづきの甲野売場と昭和四四年四月ころから取引していること、各売場が独自の得意先を持ち、売掛や代金支払を受けた売上等責任を持つて管理しているように聞いているが、小林ら小売業者としては、各売場の責任者との商取引ではありながら、あくまでも、いづきの名による信用取引であり、仕入代金の支払をした後は売場の責任者において確実に決済をしてもらえることを信じて支払をしていること、スーパーコバヤシは昭和五七年一月一〇日午後一〇時ころ、浅井博に一月二〇日支払期日の先日付小切手(額面金額四六万八七五〇円)で支払つたこと、小林が支払をした小切手については、翌日、浅井から原告に手渡したことを聞いたので、原告が商取引上保管した後、会社に納めてくれているものと信じていたことなどである。

⑩によれば、取引先の安並孝は次のとおり供述していた。すなわち、安並は、株式会社古家商店の社員であるが、いづきの甲野売場から個人的にかずのこ等を購入したこと、安並は、昭和五七年一月一六日午前八時ころ、甲野売場で原告に対し、現金三〇万円を支払つたこと、原告が会社の金を持ち逃げすると分かつていたら、安並は、決して三〇万円払うことはしなかつたことなどである。

⑪によれば、原告の愛人乙野花子は次のとおり供述していた。すなわち、花子は、昭和五六年五月ころに原告と知合い交際していたこと、花子は、昭和五七年一月一九日に原告の依頼により、協和銀行大国町支店の花子名義の口座に小切手三通(北庄二〇〇万円、松田商店六四万四七〇〇円、スーパーコバヤシ四六万八七五〇円)を入金したこと、花子は同年一月二五日に右預金口座から三一一万円を引き出して原告に渡したこと、花子は一月二二日から二五日までの間、約三〇万円の費用で原告と沖縄旅行に行つたこと、花子は、同年一月二八日午後には、原告から約三〇万円余りの家具、反物等を買つてもらい、別に小遣い二〇万円、マンションの家賃として六万五〇〇〇円を原告から受領したことなどである。

⑫によれば、原告の妻甲野律子は次のとおり供述していた。すなわち、律子は、昭和三九年一一月一五日、原告と婚姻した原告の妻であること、原告は、昭和五六年六月ころから東住吉区の北田辺駅前で串かつ屋を経営し、律子が運営にあたつていたこと、律子は昭和五七年一月一六日に原告から生活費として一〇万円をもらつたこと、原告は同年一月二六日朝に、自宅へ戻り、律子に生活費として二〇万円渡したことなどである。

⑬によれば、原告は次のとおり供述していた。すなわち、原告は、昭和五七年一月一四日、株式会社北庄ほか三か所から売掛代金として本件小切手等を集金し、会社のため業務上預り保管中、自己の用途に充てる目的で横領したことで逮捕されたが、事実はそのとおり間違いないこと、競艇で遊ぶ資金が欲しくなり会社の金に手をつけてしまつたこと、ゴルフをしたり、飲み食いしたりギャンブルで使つたりなどして三〇〇万円ぐらい借金があつたので、会社の金を一時流用して競艇でもうけて全て穴埋めしてやろうと思い、悪いこととは知りながら多額の金を横領したこと、独立採算制形式となつたのは、先代が各人に商売上手になるよう競争させ、それぞれもうけに応じて収入が得られるよういづきの改革をしたものであること、原告個人が執行役員として認可されていても、独立して一人で店をもつことはできないこと、仕入は、主に大阪魚市場株式会社東部支社、株式会社大水東部支社の二社からで、朝セリに原告が立会い、いづき甲野売場として仕入をすること、その支払は、東部市場内にある共同精算所に支払をするようになつており、各売場の責任者がいづきの事務員に行かせること、その日の売上金や売掛金入金については、店舗二階のいづき事務所に持参し、銀行にそれぞれ入金させるなりしていること、いづきは、もともとは東部市場内の大福信用金庫東部市場支店と取引していたが、売場が個々に分かれた際、原告は、木津信用組合東部市場支店に当座を持ち、このときの名義はいづき取締役原告であつたこと、原告は昭和五六年一一月二七日から、原告名義で、実際は、いづき甲野売場の普通預金口座を作つたこと、原告は、いづきの会社の金に手をつけ、短い日の間に約一一五〇万円ぐらいを競艇等に使つてしまつたこと、いづきは、原告が多額の金を横領して姿をくらませたことが分かつた時点でいづきという伝統や信用を重んじて、代表者の和田が何とか金の工面をしてでも穴埋めするなりして、警察に原告を訴えたりせず、原告が金を横領したことについてひたかくしにするだろうから、そのうち、いつか金でもできたら和田に頭を下げれば済むことと思つていたこと、スーパーコバヤシ、北庄、松田商店、古家商店の集金日時場所などは異なるがいずれも横領をきめたのが、一月一六日午前一一時ころで、いづき第二売場から、会社の売掛金として集金し、保管中のものと分かりながら競艇資金とするため横領したこと、原告は、昭和五七年一月二八日に再び尼崎競艇に行き、七ないし一〇レースに一レースあたり六〇万円の船券を買つたが負けたことなどである。

⑭によれば、原告は次のとおり供述していた。すなわち、三つの売場はある程度独立した形になつており、品物の仕入代金の支払、仕入れた品物の販売や販売代金の集金などは各売場ごとにやつていたこと、しかし、三つの売場はあくまで一つの会社だから毎年三月末の決算は全部の売場での売上などをまとめてやつていたこと、費用としての店舗使用料、冷蔵庫への品物の保管料などを会社として支払つていたこと、原告は、原告の担当する第二売場で販売した品物の代金として集金した小切手、約束手形、現金などを横領しているが、これはいずれも会社のものを原告が横領したものであること、原告が横領したことによつて第二売場の経理に穴があけば、それは第一売場や第三売場の資金で埋めなければならず、第二売場だけの問題として納まるものではなかつたことなどである。

⑮ないし⑯によれば、原告は、昭和五七年一月二九日午後四時一五分、東住吉警察署に任意同行されるや、「会社の金を横領したことですな、競艇のかけ金に使いましたわ。」と供述して本件公訴事実同旨の被疑事実を認めて以来、司法警察員に対する弁解録取の機会、検察官に対する弁解録取の機会、勾留質問の機会のいずれにおいても何ら弁解することなく一貫して認めていた。

(4)  本件刑事事件に対する第一審の第一回公判期日は昭和五七年三月二四日に開かれ、原告及び弁護人ともに本件公訴事実を認め、担当検察官は証拠の取調を請求し、弁護人はいづきの告訴状を除きその全部を同意し、証拠調は終了した。警察官が取調請求をした証拠の中には、いづきの三売場の実態に関係する昭和五七年二月四日付いづきの商業登記簿謄本、「東部市場水産物部仲卸業者の適格役員について」と題する回答書は含まれていなかつた。

同年四月二六日の第二回公判期日において、弁護人はいづきの下に和田、山田、原告の三つの売場があるが、三売場共通の経費は三名が負担し、各売場の責任者の報酬、従業員の給料、雇用人数などは各売場の責任者が決め、資金の調達は各売場の責任者が行い、いづきには資産も負債もないことなどを指摘し、本件小切手等が原告に帰属する旨の主張をし、原告もこれに呼応して争うに至つた。

結局、一二回の公判期日が開かれ、担当検察官の請求にかかる書証七五点、証拠物二三点、証人八名(内六名は弁護人からも申請)、弁護人の請求にかかる書証八点、証人七名(内六名は検察官からも申請)の証拠調が行われ、更に、担当裁判官の職権による被告人質問が行われた。

(5)  第一審判決に対し、弁護人から昭和五八年三月一六日に大阪高等裁判所に控訴が申し立てられ、大阪高等検察庁の担当検察官は、弁護人の控訴趣意に対し、控訴理由なしと答弁したが、結局、計五回の公判期日が開かれた結果、大阪高等裁判所は、第五回公判期日の同年一二月一四日、右第一審判決を破棄し、原告に対し、別紙のとおり、本件小切手等が原告の所有であることを理由に無罪判決を言い渡し、右判決は、同月二九日確定した。

四本件公訴の提起、追行の違法性

1  本件公訴の提起について

(一)  原告は、いづきの告訴状において、独立事業部制なる文言が使用されており、警察官の作成にかかる関係人の供述調書等により、いづきの取引銀行が全くないことが判明するにもかかわらず、担当検察官において、本件論点であるいづきの取引主体性やその実態について補充捜査を尽くさないまま本件公訴を提起したものである、と主張する。

しかし、検察官が補充捜査をなしさらに証拠の収集に努めるべきかどうかは、事案の性質、既に収集された証拠及び確実に入手が予測される証拠の証拠能力、証明力等を総合的に判断して有罪判決を得る客観的、合理的な見込みが十分であるか否かにより決すべき裁量行為であつて、これをなさなかつたことが右裁量の範囲を越えて検察官の義務違反であるというためには、当該証拠の収集が通常当然になすべき補充捜査といえること及び右証拠の収集懈怠のため事実認定を誤り、ひいては有罪判決の可能性のない事件につき起訴した場合であることを要するものである。

これを本件についてみると、無罪判決の理由は、前記認定のとおりであつて、要するに、大阪中央卸売市場東部市場においては、仲卸業者としては、法人しか許可されないため、仲卸業者であるいづきは、市場内で取引の相手方となる卸売業者(荷受人)との間の関係等においても、法人単位で業務を処理せざるを得なかつたにすぎないのであつて、いづきの内部関係を実質的に考察すると、第二売場における営業資金は原告の能力と判断によつて調達し、それによつて生じた債務も営業上の損失も利益も原告個人にのみ帰属する運営がなされていたのであるから、第二売場の仕入商品及び売却代金は原告の所有に属し、本件小切手等も原告の所有に属するというのである。しかし、このようないづきの運営形態は、株式会社ではあるが、実際には、代表取締役等の単独経営であるいわゆる個人企業とも異なつた個人企業の集合体ともいうべきもので、かつての仲買人制度を前提とした特殊な株式会社の運営形態というべきであるから、担当検察官が前記認定事実からいづきが株式会社組織をとつており、いわゆる個人商店の法人成りでもなかつたため、いづきは法人として実在しており、売掛金等が最終的に会社に帰属すると考えたとしてもやむをえないと考えられる。確かに、いづきの告訴状には独立事業部制なる文言が見られ、警察で作成された供述調書により、いづきの取引銀行が全くないことがうかがえるが、独立事業部制といつても、大企業における現地工場等の運営形態と同じように、内部の構成単位に経営管理や財政の自主性を認めることによつて経済性を発揮させ、それによつてそれぞれの単位だけで独立して収支を適合させはするが、収支の最終的帰属はあくまで構成単位の集合体である企業自体である制度とも考えうるのであるし、いづきの取引銀行がないことについても、右の意味での独立事業部制を採つているがゆえに各事業部たる各売場毎に取引口座を設けているのであると理解しうるのである。さらに、本件においては、前記認定のとおり、和田等のいづきの関係者はもちろん、原告自身も捜査段階では、本件公訴事実同旨の被疑事実については全く争つた形跡が存しないのであるから、原告を含む関係者の認識としても、本件小切手等がいづきの所有物であるというものであつたことは明らかである。そして、前記認定のとおり、捜査機関としては、昭和五七年二月四日付のいづきの商業登記簿謄本、「東部市場水産物部仲卸業者の適格役員について」と題する回答書により、本件小切手等がいづきに属するとした判断を検証したことが認められる。そうすると、担当検察官が、独立事業部制なる文言やいづきの取引銀行が全くないことから、さらに補充捜査をなさなかつたとしても、これをもつて、通常なすべき補充捜査を怠つたものとは言い得ない。

(二)  原告は、担当検察官において、第一審で、弁護人より、本件論点について指摘を受けてから改めて証拠の収集、取調を請求したものであつて、本件論点についての証拠が不十分のまま本件公訴を提起したものである、と主張する。

先に認定した事実によれば、第一審の第一回公判期日において、いづきの告訴状を除く検察官取調請求の全書証が弁護人において同意され、証拠調がなされ、右証拠中には、いづきの三売場の実態に関係する昭和五七年二月四日付いづきの商業登記簿謄本、「東部市場水産物部仲卸業者の適格役員について」と題する回答書が含まれていなかつたことが認められる。しかし、他方、原告は、逮捕以来、本件公訴事実同旨の被疑事実につき、何ら弁解することなく認めており、第一審第一回公判期日の罪状認否においても、本件公訴事実を認めていたのであり、第二回公判期日においてはじめて本件小切手等がいづきのものではなく原告のものであると主張するに至つたことは先に認定したとおりであるから、担当検察官が第二回公判期日以降においていづきの三売場の実態等についての証拠調の請求を追加したからといつて審理の経過、弁護人の主張、立証に対応した立証方法としてやむを得ない措置というべきであつて、これをもつて、担当検察官が本件論点について証拠不十分のまま公訴を提起したものとまで認めることはできない。

(三)  原告は、追起訴が予定されていた原告による大福信用金庫の普通預金口座からの八二三万円の引き出し行為が結局起訴されなかつた点をとらえて、本件公訴の提起について検察官の論理に首尾一貫しないものがある、と主張する。

<証拠>によれば、原告による大福信用金庫の普通預金口座からの八二三万円の引き出し行為が追起訴予定されていた事実を認めることができるが、右追起訴予定事件について検察庁においていかなる処理がなされたかについては、これを認めるに足りる証拠がないのであるから、原告の右主張は採用できない。

(四)  原告は、担当検察官が担当警察官の作成した供述調書にある明白な誤まりをそのまま容認したままの証拠に基づいて本件公訴を提起している、と主張する。

(1) まず原告は、原告が横領した金銭を競艇で費消することはありえないのに、競艇で費消したとしたのは、担当検察官の補充捜査が不十分であつたためであると主張する。

しかし、原告は、前記認定のとおり、逮捕以来、捜査段階では一貫して横領した金は競艇で費消した旨供述しており、原告がその根拠とする乙野花子の員面調書の花子の供述も前記認定のとおり、原告の行動の断片的な記述にすぎないのであるから、原告が昭和五七年一月二八日に競艇に行かなかつたことを確定するほどの証拠とも認められないし、<証拠>によれば、原告が横領されたとする金を自宅の押入れにしまつておいたと供述したのは、控訴審の公判廷がはじめてであることが認められるから、これをもつて担当検察官の補充捜査が不十分であつたということはできない。もつとも、<証拠>によれば、原告は、警察官からバンと椅子をたたかれて、しやべらないと一生帰れないぞと言われたため競艇へ行つたと虚偽の供述をした旨公判廷で供述していることが認められるが、<証拠>によれば、原告は逮捕以前の段階から自ら選んで横領した金は競艇で費消した旨供述していることが認められるし、<証拠>によれば、昭和五七年一月二八日に尼崎競艇に行つた旨の供述は、レース名、購入船券等まで示した具体的かつ詳細なものであり信用性に欠けるところはないから、原告の右供述は信用できず、前記各証拠の信用性を左右するものではない。

(2) その他、原告は、担当検察官が和田の植谷姓への復氏、いづきの設立年月日の誤まり、井上登茂子の地位に対する誤解をとらえて、捜査の不十分さを指摘するが、右事実があつたからといつて、本件捜査が不十分なものであつたものとまで断ずることはできない。

(五) 以上のとおり、本件公訴提起時において、本件公訴事実を裏付けるに足りる各証拠が収集されており、本件公訴事実である業務上横領罪が成立し、有罪判決がなされるものと判断した検察官の心証形成が、経験則及び論理則上首肯しえない程度に不合理であつたとは到底認められないから、原告の本件公訴提起が違法である旨の主張は理由がない。

2  本件公訴の追行について

(一)  担当検察官は、第一審の公判廷で取調べた証拠により本件小切手等が原告のものであることが明らかになつた後においても、あくまでこれがいづきのものであるとして論告求刑をした、と主張する。

(1) ところで、検察官は、公益の代表者であるとともに公訴権行使の正当性を主張、立証する当事者の一方として、収集された証拠及び公判の審理経過に照らし、有罪判決を得る見込が合理的に期待できると判断する以上、公訴を追行、維持する職責を負うのであるから、前記認定のとおり、公訴提起の段階において、有罪判決を期待できる合理的根拠が存した以上、その後の公判廷における審理を通じて、被告人に明白なアリバイ証明があつたとか、あるいは真犯人が検挙され、それが間違いないことが確認されたとかのもはや反論の余地のない証拠が出現し、これによつて被告人に対する犯罪の嫌疑が根本的に消滅してしまうと認めざるを得ない場合にはじめて公訴維持が違法となるというべきである。

(2) 前記認定事実、<証拠>によれば、本件公訴事実の争点に関し、以下の事実が第一審の公判で明らかになつたことを認めることができる。

(イ) 大阪市中央卸売市場東部市場における仲買業務は法人に対してのみ許可されるが、いづきは、初代代表取締役和田喜三郎がいづきの前身である泉喜水産株式会社を経営不振のため、昭和四三年一二月二一日に解散させて翌四四年一月三一日に新たに設立したものであり、同年四月一日、いづきに対し、東部市場における仲買人業務許可及び設備使用承認がなされた。

いづきの資本金五〇〇万円は、右和田喜三郎が四五〇万円、右泉喜水産の従業員であつて、引き続きいづきの従業員となつた細田義明が五〇万円をそれぞれ出資し、右細田はいづきの株主となつた。

原告は、右泉喜水産の従業員であつたが、いづきの設立には参画せず、株式も引受けておらず、右設立後の同四四年三月四日、取締役に就任し、同年四月一日に法人のため常時売買に参加できる適格役員となり、右いづきの第二売場の責任者となつて、同売場において仕入、販売を行つていた。

東部市場の荷受人である株式会社大水東部支社及び大阪魚市場株式会社東部支社は、取引相手を原告ら個人ではなく、いづきであるとして、請求書及び領収書も各売場毎の明細書が添付されるものの全ていづき宛に出している。

決算については、各売場毎の決算と、いづきとしての決算との両方が行なわれており、各売場の荷受人に対する支払は、大阪市東部水産物卸協同組合及び同組合の組合員(いづきも組合員である。)、荷受人間の合意によつて、同組合の共同精算所を通じて行なわれることになつている。

いづきにおいても当初は各売場の仕入額に応じた小切手が売場責任者名で独自に振り出され、それが一旦、代表取締役の口座に入金されてから改めていづき全体の仕入額について代表取締役振出名義の小切手が振出され、それが右共同精算所に対する支払に充てられていたが、後には、各売場責任者がそれぞれ自己の仕入額に応じて代表取締役あるいは取締役名義で振出した小切手をそのまま右共同精算所に対する支払に充てるようになり、それは当初の方法では経理の処理が面倒であるため、それを簡略にするためであつた。

右共同精算所では、複数小切手による支払も認めるが、一枚でも不渡となれば、組合員のせり参加が停止される、すなわち、いづきの売場の一つでも支払が滞れば、いづき全体がせりに参加できなくなる。

(ロ) いづきは、発足当時から売場を分けて、それぞれ売場責任者を定め、独立採算制あるいは、変則法人と称し、各売場責任者が独自に仕入販売を行い、営業資金も独自に調達し、各売場共同の施設使用料等については、これを等分するが、各売場の従業員の給料等各売場独自の費用については、各売場責任者がそれぞれ支出し、販売代金も独自に回収し、利益が生ずれば、それぞれ独自に処分し、自分達の報酬の額もそれぞれの経営状態に応じて独自に決定していた。

(3)  以上の事実を総合して、横領罪の成否について検討するに、右(イ)で認定したとおり、いづきは、一応法人としての実在性が認められるのであるが、他方、右(ロ)で認定した事実も認められるのであるから、この両者の関係をどのように考えるかが問題となる。前記認定のとおり、無罪判決は、右(イ)のいづきの法人としての実在性は、東部市場においては、仲卸業者が法人に対してのみしか許可されないことからの当然の帰結であると判示したが、法人としての実在性がそもそも認められない場合に、売掛金等が、法人には帰属せず、実質的な経営者に帰属すると判断するのは格別困難ではないにしても、本件の如く、一応法人としての実在性が認められる場合に、売掛金等が法人に帰属するか否かについては、必らずしも一義的に明白であるとは言い難い。さらに、右(ロ)の事実が認められるとしても、それがいづき内で承認された運営形態でなければ無意味なのであるから、結局、本件において、決定的に重要な証拠は、原告といづきとの間で業務はすべて独立採算制をもつて行い、各売場の経理といづきの経理とは何等関係がなく、資金の調達・商品販売代金の回収、利益分の処分、損失(商品販売代金の回収不能による損失を含む)の処理は各売場毎にこれをなし、各売場相互間はもちろんのこと各売場といづきとの間に迷惑をかけないことと定められた昭和四四年四月一一日付「株式会社いづき運営契約証書」なる公正証書(乙第二四号証)であつたといわねばならない。ところが、<証拠>によれば、原告自身右公正証書の存在を一時忘れていた上、右公正証書は原告自身が直接関与して作成されたものではないし、いづきと山田との間に同趣旨の公正証書が作成されたか否かについても疑問が残ることが認められるから、右公正証書の証拠価値は自明のものとはいえないというべきである。そうすると、第一審の担当検察官の論告求刑の時点においても、原告に対する嫌疑が根本的に解消されたといえないのは明らかである。

従つて、第一審の担当検察官による論告求刑は違法ということはできない。

(二)  原告は、担当検察官が第二審で、弁護人の控訴趣意に対し、横領罪における物の他人性の判断において形式論にたつた立論で控訴の理由がないとして、公訴を維持したが、過去の判例の傾向は、実質論にたつているのが明らかであるから、検察官の公訴維持は違法である旨主張する。

しかし、<証拠>によれば、第一審の担当検察官は、いわゆる法人の形式だけではなく、売掛金の処分権限、資金の借入れ等の実質面をも検討していることが認められ、又、前記認定のとおり、第一審における公訴維持としての論告求刑が適法であり、しかも、第一審において有罪判決が言い渡されたのであるから、他に特段の事情の認められない本件においては、第二審の担当検察官の答弁の時点において、原告に対する嫌疑が根本的に解消されたとは到底認められず、原告の主張は採用できない。

3  したがつて、原告に対する検察官の公訴提起及び公訴維持は、違法な公権力の行使には当らないものということができ、これが違法であることを前提とする原告の主張は、その余の点について判断するまでもなく採用できない。

五  結論

よつて、原告の本訴請求は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して注文のとおり判決する。

(福永政彦 森 宏司 神山隆一)

別 紙

控訴審判決の理由

本件控訴の趣意は、弁護人岡和彦作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書二通のとおりであり、これに対する答弁は、大阪高等検察庁検察官検事首藤幸三作成の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。

論旨は、法令適用の誤り乃至は事実誤認を主張し、原判決は、被告人は株式会社いづき(以下単にいづきと略称する。)の取締役であり、右いづきのため常時売買に参加できる適格役員としていづきの第二売場を担当し、同売場の責任者として、同売場の販売代金の集金、保管等の業務に従事していたものであるが、昭和五七年一月一六日、右いづき附近において、株式会社北庄他三名の得意先から集金し、右いづきのため業務上保管中の右北庄振出の金額二〇〇万円の小切手一通、右北庄振出の金額二〇〇万円の約束手形一通、有限会社松田商店振出の金額六四四、七〇〇円の小切手一通、スーパーコバヤシこと小林隆男振出の金額四六八、七五〇円の小切手一通(以下本件小切手等と略称する。)及び現金三〇万円を自己の用途に充てるため、着服して横領した旨認定したが、本件小切手等及び現金三〇万円はすべて被告人の所有に属するもので、これをどのように処分しようとも他人の物ではないのであるから横領罪が成立する余地はないのに、法の解釈を誤り、これを他人の物と判断して横領罪の成立を認めた原判決には、判決に影響を及ぼす法令適用の誤りないし事実誤認がある、というのである。

一、よつて記録を調査し、当審における事実取調の結果をも参酌して検討するに、まず以下の事実が認められる。

(一) いづきにおける被告人の立場。

いづきは、和田喜三郎らが五〇〇万円を出資して昭和四四年一月三一日に設立され、同年四月一日大阪市長から大阪市中央卸売市場東部市場における仲買業務の許可を受けるとともに、大阪市所有の水産物部仲買人売場八号棟二〇号の使用承認をうけ、同東部市場内において塩干魚の仲買業務を営む株式会社であり、被告人は、同年三月四日取締役に就任し、右いづきの営業開始時から、法人のため常時売買に参加できる適格役員としてその第二売場を担当して営業に当つていたものである。

(二) いづきの法人性。

大阪市中央卸売市場における仲買人については、昭和三八年七月二四日農林事務次官通達において、「仲買人の現状は経営規模の零細なものが多いので、仲買人の評価機能および分荷機能を充実せしめ市場における取引を円滑かつ能率的にするとともに、中間マージンを節減するため、上場単位の引上げ等と並行して、仲買人の統合による法人化等を推進して、その経営規模の拡大と業務の合理化を図る」旨指示されたことに基づき、仲卸業者は全て法人としてこれにのみ業務許可をし、従つて営業に用いる市場建物施設は法人に限つて賃借資格を認めることとなつたため、大阪市中央卸売市場で仲買人業務を行うためには、大阪市及び卸売業者(荷受人ともいう)である大阪魚市場株式会社・同株式会社大水との関係では必然的に法人として対処することを要することとなるため、いづきを構成する第一乃至三の各売場は、いづきとして業務を処理するほかなく、東部市場における仲買業務の許可・市場施設の使用承認は勿論仕入れ商品に対する請求書(各売場の明細書を添付)及び領収書もいづきに対して発行され、且つ荷受機関から仕入れた商品代金の支払決済は、大阪市東部水産物卸協同組合と同組合の組合員及び荷受人間の合意によつて、右組合の共同精算所を通じて、いづき全体の仕入額について行われ、当初はいづきの各売場の仕入額に応じた小切手が売場責任者名で振出され、一旦いづき代表取締役の口座に入金の上、改めていづき全体の仕入額について、いづきの代表取締役振出にかかる小切手で前記共同精算所に対する支払に充当されていたが、本件事件当時には、いづきの各売場責任者が各自自己の仕入額に相応する小切手を振出し、右複数小切手を一括して、いづきの支払として共同精算所に交付する方法がとられるようになつていた。従つて、右複数小切手のうちの何れか一枚でも不渡になることがあれば荷受人の関係ではいづきにおいて取引を停止されるものとされていた。また、その決算については毎年の決算期には各売場の取引を合計し、いづきとして決算報告書を作成していた。さらに、前記協同組合の各組合員に対する各種分担金もいづきとして支払をしていた。

(三) いづきの経営実態。

いづきの前身である泉喜水産株式会社は、経営不振のため昭和四三年一二月二一日に解散し、その代表取締役であつた和田喜三郎は新たにいづきを設立し、泉喜水産株式会社の従業員であつた被告人も、和田喜三郎の勧めに応じていづきの取締役および適格役員にそれぞれ就任し、爾来売場を第一ないし第四売場に分け、第一売場の責任者には和田喜三郎(のち和田耕作(ママ)にかわる)が、第二売場の責任者には被告人が、第三売場の責任者には山田利夫が、第四売場の責任者には増田太一郎(一年後退社)がなり、各売場責任者は適格役員として、各売場の仕入・販売を担当していたものであるが、いづきの代表取締役和田喜三郎と被告人及び山田利夫(いづきの第三売場担当者)とは、昭和四四年四月一一日大阪法務局所属高橋源治公証人役場において、「業務はすべて独立採算制をもつて行い、各売場の経理といづきの経理とは何等関係がなく、資金の調達・商品販売代金の回収・利益金の処分・損失(商品販売代金の回収不能による損失を含む)の処理は各売場毎にこれを為し、各売場相互間は勿論のこと各売場といづきとの間に迷惑をかけないこと」とする契約を締結の上、同旨の公正証書を作成し、以来右契約の趣旨にのつとつていづきが運営されて来ているもの(なお、同契約はその有効期間は一ケ年とされ、その後同契約が更新された形跡は窺えないのであるが、その後もその実態について変化はなくそれまでと同様に運営されてきた。)であり、いづきと各売場又は各売場相互間で経理上の清算がなされるのは、主として前記大阪市から賃借中の売場の賃料・三つの売場共通の事務を処理するために雇傭している井上登茂子の給料等・光熱水道電話料金・法人税及び各従業員の源泉所得税、社会保険料など各売場共通の経費あるいは各売場固有の経費の支払い等に関してであつて、それ以外はすべて独立採算制を貫いて来た。そして、当然ではあるが、各売場は商品の仕入れ、商品の販売をそれぞれ独立別個に行なつて来た。

二、当裁判所の判断。

前記一の(二)で認定した諸事実は、いわば東部市場の仲買人が法人に限つて許可されていることから招来される当然の帰結であつて、大阪市や卸売業者等に対する対外的関係、電話、水道、電気の使用契約関係および公租公課の関係においてはその処理を法人であるいづきとしてなす必要があつたものであり、本件で問題とされる仕入れ商品およびその売却代金の権利が何人に帰属するかについては以上のようないわば外形的ないし形式的な観点のみからではなく、いづき及び各売場責任者間の内部関係についてもより実質的にこれを考察して判断すべきものと解される。

以上認定の事実に基づいて本件小切手及び現金三〇万円は何人の所有に属するものであるかについて考察するのに、被告人といづきとの間においては前記一の(三)で認定のとおりすべて独立採算で経理面を処理する契約が締結され、これによりいづきの第二売場における営業に要する資金はすべて被告人の能力と判断によつて他から調達し、それにより生じた債務はひとり被告人個人にのみ帰属しいづきには何等の責任が及ぶものではなく、又第二売場の営業上の損失は被告人の責任においてこれを処理し、いづきや他の売場責任者に関係なく、さらに第二売場の営業上の利益は(但し、これに対する諸税公課分は除き)被告人の専権により処分することができ、他に株主に対する利益配当資金やいづき自体の資金に出資する等の事情はなかつたのであり、単に他の売場に対して迷惑をかけないようにするため、自己が共同精算所に支払うべき債務の履行を全うする責任が科せられていたにすぎないものであることに照して考えると、被告人の本件所為によりいづき全体が取引停止処分の損害を被つた点について被告人に債務不履行の責任は否めないとしても、第二売場の仕入れ商品及び売却代金はともに被告人の所有に属するものと解すべく、本件手形及び現金三〇万円はまさに右第二売場の営業によつて生じた売掛代金を回収したものであるから当然被告人の所有に属するものと言うべきである。

したがつて、これを被告人が自己の用途に使用しても業務上横領罪は成立しないのに、これをいづきの所有として被告人に業務上横領罪が成立すると認定した原判決は事実を誤認したもので、右誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかであり、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて、刑事訴訟法三九七条一項、三八二条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により更に判決すべきところ、本件公訴事実(原判決事実と同じであるからこれを引用する)については前記説示のとおり犯罪の証明が十分でないから、同法四〇四条、三三六条により主文のとおり被告人に対し無罪の言渡をする。

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